
- 広告業界は「不確実性」がキーワードで、人員削減、アドテク施策の拡充、広告主とプラットフォームの曖昧な関係性など、ことしも変化の激しい年になる見通し。
- 一方で、広告支出は回復基調にあり、2024年は広告費成長率が予測されている。なお、広告主のなかには戦略的投資により好業績を収めている企業もある。
- 開拓余地のある分野としてゲーム領域が注目されており、広告主はゲームやeスポーツへの出稿を増やしている。ゲーム領域への出稿のハードルは低くなりつつあるようだ。
2024年に入ってから、広告の世界には変化の嵐が吹き荒れている。
嵐の勢いは簡単にはおさまりそうになく、2月の中盤を過ぎても企業の人員削減の加速、大がかりなアドテク施策の導入、広告主とプラットフォーム間の緊張の高まり、高精度なトラッキングの将来をめぐる議論など、業界を騒然とさせる現象が相次いでいる。
ありていに言えばキーワードは「不確実性」で、この傾向が年末まで続きそうだ。マーケターにとっては、業界の構造的変化の方向性がしだいに見えてきて、対応に必要な知識が自社に備わっているか、足りない知識は何かを確かめられる時期といってもいいだろう。2024年はさまざまな意味で「過渡期」と位置づけられる年になる。
広告支出の傾向は底堅い伸び
ひとつ確実なのは、広告支出が回復基調にあることだ。業界各社の経営幹部やコンサルタント、トレンド予測の専門家らの見立てでは、1年を通じて旺盛な出稿需要が期待できるという。
ウィンターベリーグループ(Winterberry Group)の予測によれば、政治関連を除いた米国の広告費はことし、前年比4.4%増の5700億ドル(約85兆5000億円)。政治広告を含めると成長率は一段と高くなり、前年比10.4%増の5870億ドル(約88兆円)に達する見通しだ。英国では、IPG傘下のメディアインテリジェンス事業会社マグナ(Magna)がことしの広告費成長率を5.7%と見込んでいる(2023年は3.7%)。一方、全世界を対象とした調査では、インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)も同様の傾向を予測しており、ことしの広告費成長率は10%近くになるとした。
2020年から21年にかけての驚異的な成長率に比べれば控えめな数値に見えるかもしれないが、当時の需要急増はコロナ禍で市場が冷え込んだ後の反動によるところが大きかった。
市場は現在、コロナ禍前の成長水準に戻る調整局面にあり、広告費増の勢いが一時的に鈍ったように見えても、全体の傾向としては底堅い伸びが続いている。実のところ、一部の広告主は過去1年半、戦略的投資方針にのっとり、新興企業に一歩先んじて効果的にメディア予算を投入したり、直接の競合他社のキャンペーンにおける失敗に乗じたりして、不安定な経済状況を乗り切ってきた。そうした優良企業の最近の業績を見れば、戦略的投資の効果は明らかだ。
モンデリーズ(Mondelez)、クロロックス(Clorox)、アディダス(Adidas)といった有力広告主は前四半期、広告費実績の大幅増を報告、または2024年末に向けた広告予算の拡大を発表した。一方、広告収入の大半を小規模広告主に頼っているメタ(Meta)とGoogleはことしに入ってすでにレイオフを実施したとはいえ、前四半期は好業績だった。
パブリッシャーはCookieレスに楽観的?
パブリッシャーでさえ、2024年の広告市場について慎重ながら楽観的な見方をしている。ただし、余計なリスクは冒さないだろう。
多くのパブリッシャーが年初にコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)と世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)に参加し、一堂に会した広告主候補との対話を通じて第3、第4四半期の収益につながるビジネスチャンスをうかがった。
これらの催しへの参加には、ほかのメリットもあった。2023年来、体験型イベントのスポンサーシップに対する広告主の関心の高まりを受け、パブリッシャーは自社のイベント事業発展の足がかりとして、今回の対話の機会を活用した。直販広告事業における注力対象はイベント、リサーチ、動画の3分野だが、各社は体制強化のため各分野の専門チームにある程度の投資を始めているようだ。
意外なことに、サードパーティCookie廃止の時期が迫っているにもかかわらず、パブリッシャーの通年に及ぶ楽観的見通しが揺らぐ様子はない。Cookie代替ソリューションを試験的に運用してこれまでの結果に好感触を得た企業もあれば、内製のコンテクスチュアルターゲティングやファーストパーティデータのソリューションに期待を寄せる企業もある。
「我々はターゲティングにCookieを必要としないし、代替IDも使わない。当社開発のD/Cipherソリューションにより、アドレッサビリティ100%を実現できる」と、ドットダッシュ・メレディス(Dotdash Meredith)の最高イノベーション責任者であるジョン・ロバーツ氏は主張する。「D/CipherはCookieなしでiOSプラットフォーム上のユーザーとCookieで識別されたユーザー全員にリーチ可能で、Cookieに基づくターゲティングを上回る機能をもつ。Cookieはターゲット拡張ができ、代替ソリューションではできないという間違った思い込みをする人がよくいるが、Cookieでターゲット可能なユーザーは市場の半分程度だ。全国のユーザーを対象にできないなら、拡張性に富んだソリューションとはいえない」。
喫緊の課題はプラットフォーム各社における大規模なレイオフ
一方、広告主側も(少なくとも業界各社の動きを追っている会社は)同様の見解を示している。「我々は、サードパーティCookieのサポートが終了しても嘆いたりはしないだろう」とダノン(Danone)でメディア/ブランドコミュニケーションのグローバル責任者を務めるキャサリン・ローティエ氏は言う。「Cookieが収集するデータの質の低さを考えれば、Cookieが消滅しても大きな損失にはならないはずだ」。
広告主のマーケターやエージェンシー幹部はCookie廃止後も平然としていられるか? 答えは時が経てばわかる。そのあいだ、彼らはテレビメディアの多様化、リテールメディアの乱立、繰り返し浮上するブランドセーフティの懸念といった、さしあたっての課題に取り組まなくてはならない。なかでも喫緊の課題は、プラットフォーム各社における大規模なレイオフの影響にどう対処するかだろう。[続きを読む]
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